服の色と温熱感——暖色は暖かく見え、温度上昇は近赤外光の吸収で決まる

服の色と温熱感——暖色は暖かく見え、温度上昇は近赤外光の吸収で決まる

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同じ素材、同じ形、違うのは色だけ。その布に光を当てたとき、温度計はどこまで上がるのか。

「赤は暖かそう、水色は涼しそう」という感覚を、アンケートと光照射実験の両方で測った研究が、日本家政学会誌に掲載されています。

この記事で紹介する論文

この記事は、2025年に日本家政学会誌へ掲載された1本の論文を取り上げ、その内容を紹介するものです。取り上げるのは、高橋哲也・鶴永陽子(島根大学)、守田朱音・新井洋二郎・松場忠(株式会社石見銀山群言堂グループ)による「被服の色彩によって受ける心理的な温熱感に対する光照射実験による物理的な検証」(日本家政学会誌 第76巻第6号 269–283ページ、2025年/DOI: 10.11428/jhej.76.269)です。

研究は3つの手続きで構成されています。Tシャツ形の布地を見せて温熱感を尋ねるアンケート調査、同じ布地にレフランプで光を当てて温度変化を測る光照射実験、布地の透過光と反射光のスペクトル解析。心理的な評価と、測定された温度と、光の吸収率を、同じ試料の上に並べた構成です。

項目内容
題目被服の色彩によって受ける心理的な温熱感に対する光照射実験による物理的な検証
著者高橋哲也、鶴永陽子(島根大学)/守田朱音、新井洋二郎、松場忠(株式会社石見銀山群言堂グループ)
掲載誌日本家政学会誌
巻・号・ページ76巻 6号 269–283ページ
受理・公開2025年2月3日 受理/2025年7月2日 公開
キーワード色相、温熱感、光照射、近赤外光、日射透過率、日射反射率
公開区分ジャーナル フリー(J-STAGEで全文閲覧可)
DOI10.11428/jhej.76.269

以下では、研究の内容をやさしい言葉で要約したうえで、抄録の全文、研究が置いた問い、抄録から確認できる事実、そこから読み取れることの順に扱います。実験条件や実測値は原著本文(269–283ページ)に記載されており、本記事は書誌情報と公開抄録で確認できる範囲を扱います。

やさしい要約

ひとことで言うと

赤や黄などの暖色の服は見るだけで温かく感じられ、実際に光が当たったときの温まりやすさは、色の濃さ近赤外線の吸収しやすさで決まります。

どんな研究?

服の色を変えると、着る人の暑さ・涼しさの感じ方はどう変わるのか。それを調べた研究です。まず、いろいろな色のTシャツ形の布地を見せて、どのくらい温かそうに感じるかを答えてもらいました。その結果、赤系や黄系の布地は温かそうに感じられ、同じ色でも濃いほうがより温かそうに見えることがわかりました。

次に、その同じ布地に強い光を当てて、実際に何度まで上がるかを測りました。どの色でも濃い布地のほうが高い温度に達しました。青系の布地が黄系の布地より高温になる場合もあり、見た目の印象と実際の温まり方は別のものだとわかりました。

さらに、布地を通る光と跳ね返る光を調べたところ、目に見えない近赤外線(=熱を運ぶ光)まで含めて、光をよく吸い込む布地ほど温度が上がりやすいという関係が見えました。

なぜおもしろい?

夏に白い服を選ぶ習慣は、見た目の涼しさと実際の温まりにくさの両方に関わっているようです。色の印象と、光をどれだけ吸い込むかは別々に働くため、涼しく見える服が必ずしも涼しいとは限らない、という見方もできそうです。

要旨

この論文は、服の色から受ける「暖かそう/涼しそう」という心理的な温熱感を、同じ布地への光照射実験とスペクトル解析によって物理側から測った報告です。心理量として語られてきた色の寒暖感を、測定できる量と並べて置いた点が研究の核にあたります。以下は、J-STAGEで公開されている抄録の全文です。

被服の色彩による人の温熱感に及ぼす心理的な影響を調べるべく, 研究対象者に異なる色彩のTシャツ形の布地を提示して温熱感に関するアンケート調査を行った. その結果, 人は暖色である赤色系や黄色系の色の布地に対して, 明らかに高い温熱感を示した. また, 同系色においては濃色の布地の方が淡色の布地に比べてより高い温熱感を示した. 次に, レフランプを用いて同じ布地に光照射してその温度変化を測定した. その結果, いずれの色相においても, 濃い色の布地の最高到達温度は淡い色の布地の場合よりも光吸収に伴って高く現れた. 但し, 光照射に伴う温度上昇は, 寒色である青色系の布地の方が暖色である黄色系の布地よりも最高到達温度が高く現れる場合があるなど, 心理的な温熱感とは必ずしも一致しなかった. さらにこれらの布地に対して, 透過光と反射光によるスペクトル解析も行った. その結果, 近赤外域を含む波長領域での日射透過率と日射反射率の総和値は, レフランプの光照射によって求めた最高到達温度に対して高い相関関係が認められた. つまり, 近赤外光を含む光の布地への吸収の割合が高いほど, 布地が温度上昇しやすいことが定量的にも明確となった.

——日本家政学会誌 76巻6号 抄録より

問い

この研究が置いた問いは、次の形に整理できます(色彩101による整理であり、著者の記述そのものではありません)。

  • 服の色が変わると、見た人が受ける温熱感はどう変わるのか
  • その感覚に、光の吸収という物理過程で対応する量はあるのか
  • 心理的な温熱感の順序(暖色が暖かい/寒色が涼しい)と、実測された温度上昇の順序はどこで重なり、どこで分かれるのか
📝 補足

「心理的な温熱感」と「物理的な温熱感」は別の量です。前者は「暖かそうに見える/感じる」という評価、後者は布地の温度という測定値。題目が「心理的な温熱感 に対する 物理的な検証」となっているのは、この2つを同じ試料の上で突き合わせる構図を指しています(色彩101による整理)。

事実

抄録から確認できること

  1. アンケート調査 — 研究対象者に異なる色彩のTシャツ形の布地を提示し、温熱感を尋ねた。赤色系・黄色系の布地に対して、明らかに高い温熱感が示された
  2. 同系色の濃淡 — 同じ色相のなかでは、濃色の布地のほうが淡色の布地より高い温熱感を示した
  3. 光照射実験 — レフランプを用いて同じ布地に光を照射し、温度変化を測定。いずれの色相でも、濃い色の布地の最高到達温度が淡い色の布地より高く現れた
  4. 心理と実測の分かれ目 — 寒色である青色系の布地が、暖色である黄色系の布地より最高到達温度が高く現れる場合があった
  5. スペクトル解析 — 透過光と反射光を解析したところ、近赤外域を含む波長領域での日射透過率と日射反射率の総和値が、最高到達温度と高い相関関係を示した
  6. 著者の結論 — 近赤外光を含む光の布地への吸収の割合が高いほど、布地が温度上昇しやすいことが定量的に明確となった

布地の素材や色票、被験者数と属性、レフランプの出力・距離・照射時間、最高到達温度の実測値と相関係数は、原著本文(269–283ページ)に記載されています。本記事は抄録で確認できる範囲を扱っています。

解釈

色の寒暖感は、長く感覚の側から語られてきた領域です。この研究は、そこに同じ布地へ光を当てて温度を測るという、再現可能で第三者が追試できる手続きを重ねています。心理と物理のどちらが正しいかを競わせるのではなく、心理側の評価に物理側の物差しを並べて置く構図です。

結果は、2つの軸で読み分けられます。

  • 明度(濃淡)の軸 — 心理と物理が同じ方向を向いた。濃い布地は温かそうに見え、実際に高い温度へ達した
  • 色相の軸 — 心理と物理が別々に決まった。赤系・黄系は温かそうに見え、最高到達温度では青色系が黄色系を上回る場合があった

この分かれ目を説明したのが、近赤外域を含む吸収率です。目に見える色を決めているのは可視域の反射で、温度を決めているのは近赤外まで含めた吸収の総量。同じ布地を測っているのに別の答えが出るのは、見ている波長域が違うためだと読めます。

📌 ポイント

色が持つ層は2つあります。見え方の層(可視域の色相・明度)と、熱としての振る舞いの層(近赤外域を含む吸収率)。同系色の濃淡ではこの2層が同じ方向に働き、色相の違いでは別々に働きました。

💡 ヒント

同じ色相のなかで選ぶなら、濃淡が判断材料になります。この実験では、いずれの色相でも淡い色の布地のほうが最高到達温度が低く現れました。色相をまたいで比べる場合は、見た目の寒暖感と実測の温度上昇が別々に動きます。

🎨 例

この研究は、色相の違い(赤色系・黄色系・青色系など)と、同系色内の濃淡という2つの軸で布地を比べています。同じ考え方で比較軸を置くと、次のような組み合わせになります。

  • 濃淡の軸: 墨色 #1A1A1A / 生成り #F5F0E8
  • 色相の軸: 朱色 #C8392B / 水浅葱 #6BA3B8

この4色は本記事の説明のために選んだ例であり、原著が用いた試料色ではありません。

出典

  1. 高橋哲也, 鶴永陽子, 守田朱音, 新井洋二郎, 松場忠「被服の色彩によって受ける心理的な温熱感に対する光照射実験による物理的な検証」日本家政学会誌, 第76巻 第6号, pp.269–283, 2025年. DOI: 10.11428/jhej.76.269
  2. J-STAGE 論文ページ: 日本家政学会誌 76巻6号 269–283(ジャーナル フリー)
  3. 本文PDF: J-STAGE 掲載PDF

本記事の内容は、上記論文の書誌情報とJ-STAGEで公開されている抄録に基づいています。実験条件および実測値は原著本文(269–283ページ)を参照してください。

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